妊活ゼミナール

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今日の授業

妊活の代表成分「葉酸」は妊娠率を向上させるのか?

妊活の代表的な成分として多くの女性が知っている「葉酸」
なぜ、葉酸が必要なのか理由を知っていますか?

ある調査では、葉酸サプリを飲んでいる女性の半数以上が、葉酸が必要な理由についてなんとなくしか知らないということがわかりました。

今回は、葉酸に関する正しい知識と、妊活に必要な成分についてご紹介します。

妊活中の女性には年齢というタイムリミットが付きまといます。正しい知識で今できる最善の対策をとりましょう。

葉酸は妊娠率をアップさせる成分ではない

全国の妊娠した経験のある女性に対して、葉酸を摂ろうと思った理由について調査した結果では、回答の3割近くが妊娠しやすい体づくりのためと回答しています。

しかし葉酸には、妊娠率を高めるといった効果はありません。
今妊活に励んでいる人の中にも、葉酸を飲むと妊娠率が上がるといった誤った認識を持っている人もいるかもしれません。

葉酸には、胎児の神経管閉鎖障害の発症リスクを下げる効果が認められています。
神経管閉鎖障害とは、神経管というヒトの頭部から臀部に通る管の一部が正常に閉じないことで起こる病気のことです。

具体的には、無脳症や二分脊椎が挙げられます。

無脳症は、頭部の神経管が閉鎖できていない疾患で流産のリスクも高まる先天性異常疾患です。二分脊椎では、臀部側に髄膜瘤というふくらみができ、排尿障害や歩行障害を引き起こします。

この神経管ができる時期が妊娠6週前後なので胎児の先天性異常疾患のリスクを予防するために葉酸が必要なのです。

なぜ葉酸が妊活のパイオニア成分とされているのか

胎児に対する葉酸の効能は、二分脊椎症などの神経管閉鎖障害の発症率が高いニュージーランドや米国などで行われた症例対照研究で明らかになっています。

神経管閉鎖障害の発症率は人種によって差がみられ、1970年代の日本では1万人に2人の確率だったことから日本では調査が遅れていました。

しかし、中国の研究で葉酸の摂取が、先天性異常疾患の発症率の低い地域においても3割リスクが低減したことが報告されたのです。*1

1990年代にかけて徐々に日本での発症率も高まっていたことから、疫学調査が行われるようになりました。

このような背景をうけて2000年に厚労省から正式に、妊娠の可能性がある女性に対する葉酸の摂取が呼びかけられました。

胎児の神経管など重要な器官が形成される時期は、つわりなどの自覚症状が少ない場合も多いです。そのため、日頃から妊活を意識していない女性は、この大事な時期を過ぎてから妊娠に気付くことも少なくありません。

厚労省からの通知では、いつ妊娠しても良いように、特に妊娠1か月前から妊娠3か月の間は、食事から摂る葉酸にプラスして、サプリメントから摂る葉酸を1日400ug摂取することが推奨されています。

ここから、さまざまなメーカーから葉酸サプリが発売され、女性の妊活に対する意識も少しずつ変わっていったのです。

葉酸は妊娠前から飲む成分

葉酸は、ビタミンBの一種であり、妊娠前であっても赤血球を産生するのに必要なため、食事から摂ることが必要です。

男女問わず一日あたり、240ugの摂取が推奨されていますが、実際にはどんな食事をすれば良いのでしょうか。

例えば、ほうれんそう1株(60ug)、いちご5粒(60ug)、納豆1パック(60ug)などが毎日食べやすいでしょう。

しかし、特別に意識しなくても、バランスの良い食事を心掛けていれば、あらゆる食品から葉酸を摂取しています。

実際に、厚労省が令和元年に調査した結果によると、どの年代においても葉酸の平均摂取量は240ugを超えていることがわかりました。

体に良い葉酸は、サプリでの過剰摂取による危険があることを意識しなければなりません。

サプリメントから摂れる葉酸の一日当たりの上限量は1000ugとされています。
上限を超えた量を摂取することで、ビタミンB12欠乏症の悪性貧血の診断が困難になるという報告もあります。

葉酸は水溶性のビタミンであり、全てを吸収することは考えにくく、過剰な分は一部排泄されますが、毎日推奨量より多く飲み続けている方は注意してください。

サプリメントに含まれる葉酸は、食事から摂れる葉酸と比較して体内吸収率が2倍です。

今飲んでいるサプリには葉酸はどのくらい含有しているか確認することも必要でしょう。

正しい葉酸の理解を 〜エビデンスをご紹介〜

葉酸は、胎児の神経管閉鎖障害のリスクを減らすだけではありません。

妊娠初期に葉酸を摂取することで、子供の3歳時点の重度言語発達遅延リスクが半減するという結果も報告されています。*2

また、正常位置に付着している胎盤が、子宮から早期に剥離してしまう常位胎盤早期剥離も葉酸の摂取によりリスクが低減することも研究により明らかとなっています。*3

神経管閉鎖障害のリスク低減のため、妊娠前の摂取というイメージが強い葉酸ですが、妊娠中や産後にとって葉酸がどのような働きをしているのか、医学論文や研究結果に基づいた科学的根拠から正しく理解しましょう。

妊活サプリは既に第3世代卵子の抗老化成分NMNの時代に

妊活の成分として、現在注目されているのが抗老化成分「NMN」です。

2014年頃に、女性の高齢化と卵子の老化について、日本中で広く認識されました。
女性は年齢に伴って徐々に妊娠率が下がります。

それには卵子の数が毎月減ることと、卵子が老化して質が悪くなることが主な原因であることが分かっています。

卵子の老化に着目したのが第二世代で、細胞の活性化に関与するミトコンドリアに間接的に働きかけるとして多くの人に知れ渡りました。

2020年には、体内でも生成されているヒトには欠かせない補酵素であるNMNという成分が、細胞の機能の維持に直接働きかけることが報告されています。

特にマウス実験において、卵子の元である卵母細胞にNMNを補充したところ卵母細胞の質が向上したことが分かり不妊治療の分野で注目されています。*4

NMNは、2022年に妊活最適型サプリが開発されたばかりの最新の成分です。
科学的根拠をしっかりと調べた上で、卵子の質の維持のために食生活の見直しやNMNサプリを検討してみてはいかがでしょうか。

参考文献

2000年12月 国立保健医療科学院
神経管閉鎖障害の発症リスクの低減に関する報告書
https://www.niph.go.jp/soshiki/07shougai/yousan/tsuuchi/houkokusho/houkokusho.html

2019年12月 「日本人の食事摂取基準」策定検討会
日本人の食事摂取基準(2020 年版) 「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf

2018年11月 株式会社ゼネラルリンク/PR TIMES
《妊娠期における葉酸に関する調査》2人に1人はサプリで摂取!35%は妊活中からサプリを飲んでいた【赤ちゃんの部屋調べ】
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000029820.html

*1 1999年11月 R J Berry,Z Li,J D Erickson,S Li,C A Moore,H Wang,J Mulinare,P Zhao,L Y Wong,J Gindler,S X Hong,A Correa
Prevention of neural-tube defects with folic acid in China. China-U.S. Collaborative Project for Neural Tube Defect Prevention
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10559448/

*2 2011年10月 Christine Roth,Per Magnus,Synnve Schjølberg,Camilla Stoltenberg,Pål Surén,Ian W McKeague,George Davey Smith,Ted Reichborn-Kjennerud,Ezra Susser
Folic acid supplements in pregnancy and severe language delay in children
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21990300/

*3 2008年4月 Roy M Nilsen,Stein E Vollset,Svein A Rasmussen,Per M Ueland,Anne K Daltveit
Folic acid and multivitamin supplement use and risk of placental abruption: a population-based registry study
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18187445/

*4 2019年6月 Xinghan Wu,Feifei Hu,Juan Zeng,Longsen Han,Danhong Qiu,Haichao Wang,Juan Ge,Xiaoyan Ying,Qiang Wang
NMNAT2-mediated NAD + generation is essential for quality control of aged oocytes
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30909324/

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